物申す

90年代インターネットの存在は未来に大きく夢を抱かせてくれた。

飛行機に乗らなくても各家に固定電話からダイヤルアップで世界中どこへでも繋がることができ、未来には映像や音が簡単に送受信でき、もしかしたらワープしたりできるのか、なんて想像した。そんな想像を抱えて、なんだかよく分からないまま真っ先にインターネット環境を先取りし海外へ自分の作った音楽を公開しようと必死になってたり…まだまだアナログ主流の時代にホームページを見てくれたオーストラリア人がスイスに知り合いのミュージシャンがいるのであなたの音楽を紹介したいと手紙をくれた。早速メールアドレスを聞き、連絡をとると一緒に何か作ろう!と

話になった。インターネットでメールのやり取りはできても音のファイルはまだ送るには電話回線では無理だった。住所をお互いに聞き合いDATを送り合い音を吹き込んでは文通のようなやり取りを時間をかけて始めた。Bee Bee Honeyというユニットはギターとヴォーカルのユニットで、自分はREMIXを作り、日本語のRAP入れて送った。何ヶ月かかっただろうか。あれから20年あまり、彼らと今ではSNSで簡単に連絡できてしまう。が、一度もまだ会ったことがない。隣にいる人までもインターネット回線上で会話をする事に違和感すら感じない人も少なくない。20年前、更にその前の時代からしたら奇跡に近い。とは言え、70年代ウルトラマンの物語にあるような未来には未だ達していないどころか、人と人とのコミュニケーションのあり方が逆走している風潮さえ感じることがある。

政治家然り、一般人然り、当たり前と思っていることがそうでなくなると、浮世離れする者も現れる。SNSへの依存が高いがあまり、大切な人とのコミュニケーションの順序を履き違えモラルや義理人情が時代とともに欠落し想像力も同時に薄れてきてしまっていることに危険を感じる。大切な人と大切な話を本人とする前にSNS上に公表し自己顕示欲をむき出し人を傷つけ、時に自分を最終的には追い詰めてしまう。炎上商法なる馬鹿げた輩が当たり前のように金稼ぎ目的で自分のやりたい事だけアピールする大人たち。いつからこんなにモラルも愛も情緒も恩義も無視する世の中になってしまったのだろうか。

『俺たちの旅』をMX2で放映している。中村雅俊主演の青春ドラマだ。子供心に夢中になって観ていたけど今観ると懐古主義的ではなく失われつつある大切な人間のあり方が描かれていることにあらためて感動する。トランザムの劇伴然り、小椋佳の歌詞然り、脚本然り….今の若い人が観ても琴線に触れるかは分からないが令和の時代にこのドラマを放映してくれるMXには脱帽だ。携帯もインターネットも風呂も電話もPCもない時間を1週間でも、いや1日でも過ごしてみたら自分が失った何かを取り戻せるのかもしれない。物質なんてあってもなくても大切なことはどんな時代であっても不変なはず。人間なんて蟻と大差なく死ぬ時は突然踏まれて死んじまうんだから、生きてる間は感じられる人間でいたい。テクノロジーに操られたAIじゃないんだからね。