斎藤椅子製作所

斎藤巳三郎

祖父の名が椅子の神様と言われる
宮本茂紀さんの
ギャラリーに刻まれていた。

宮本茂紀さんは
ぼくが生まれる前
祖父の家で
椅子の職人として
弟子入りをしていた。

茂紀さんの椅子は
世界中で愛され、日本でも
皇室や新幹線
国会議事堂の椅子まで
デザインから張り替えまで
驚く程の数々を手がけられている。

ぼくが小さい頃

祖父の作業場は
とても身近だった。

口から釘を次々と出して
椅子を金槌で打つ姿や音
ニスの香り

良く画鋲や釘を勝手に使って
ビー玉のパチンコ台を作って
遊んでいた。



自転車は
そんな釘のおかげで
良くパンクをしては
祖父がタイヤを外し
直してくれた。


あの時には
何もわからなかった。

祖父の手作業での張り替えの
技術は今となっては
希少で尊いものだと知った。

祖父が亡くなり
片付けをしていると
わざわざ遠くから
祖父に
椅子の修理を
お願いしに人が
訪ねて来た。

亡くなったことを
伝えると
とても残念そうだった。
その表情は今も忘れない。

宮本茂紀さんの
ギャリーに足を運び
一つ一つの丁寧な
職人技を見た時

なぜか涙が溢れ出た。

一つの道を極める事の偉大さと
無心で向き合えるものへの愛情

これらは
一生のうちでの大きな
目標だ。